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4. 積雲パラメタリゼーション

4.1 はじめに

大気大循環モデルにおいては 積雲を様に表現するだけの分解能を持たないので, 雲の発生する条件 並びに雲が大気大循環に与える影響については 何らかの方法で評価せざるを得ない. 雲が発生する条件および 雲が大気大循環に与える影響のうちの 熱・運動量輸送効果については 4.1, 大規模場の速度や熱力学的諸量から評価することが多い. この評価方法は一般に積雲パラメタリゼーションと呼ばれ, 特に以下の型のものが良く用いられる.

また, そもそも大気が過飽和状態にあれば降水が起こる. これを大規模凝結という. これについては 別紙『大規模凝結』を参照のこと.

以下では dcpam5に実装されている各種パラメタリゼーション について解説する.

4.2 湿潤対流調節

4.2.1 はじめに

連続した 2 つのレベルの間の層において, 次の条件が 満たされる場合に調節を行う.

  1. 温度減率が湿潤断熱減率よりも大きい.
  2. 飽和もしくは過飽和.

4.2.2 水蒸気が少ないという近似を行う場合

上記の条件 (1) に関して, エントロピー $ S$ の高度変化に関する条件

$\displaystyle \DD{S}{z} < 0$ (4.1)

を, 「水蒸気が少ない」という近似を用いて書きかえると

$\displaystyle \DP{T}{z} - \frac{RT}{C_p p} \DP{p}{z} + \frac{L}{C_p} \DP{q^*}{z} < 0$ (4.2)

となる. ここで, $ C_p$ は乾燥大気の定圧比熱, $ L$は潜熱, $ q^{*}$は 飽和比湿である.

上記の条件 (2) はそのまま用いる.

これらを用いて温度と比湿を調節するのがこのモデルでのデフォルトの 湿潤対流調節スキームである. 以下, スキームの定式化の説明を行う 4.5.

4.2.3 温度と比湿の調節量の計算方法

比湿と温度を, $ (\hat{q}, \hat{T})$ から $ (q, T)$ へ 調節するものとする.

条件式は以下の通りである.

$\displaystyle q_{k-1}$ $\displaystyle = q^* (T_{k-1}, p_{k-1}),$ (4.3)
$\displaystyle q_{k}$ $\displaystyle = q^{*} (T_{k}, p_{k}),$ (4.4)


$\displaystyle T_{k-1} - T_{k} + \frac{L}{C_p} \left\{ q^{*} (T_{k-1}, p_{k-1}) ...
...\frac{R}{C_p} \frac{\Delta p_{k-1/2}}{p_{k-1/2}} \frac{T_{k-1} + T_{k}}{2} = 0,$ (4.5)


$\displaystyle (C_p T_{k} + L q_{k}) \Delta p_{k} + (C_p T_{k-1} + L q_{k-1}) \D...
...at{q}_{k}) \Delta p_{k} + (C_p \hat{T}_{k-1} + L \hat{q}_{k-1}) \Delta p_{k-1}.$ (4.6)

解は以下のようになる.

4.3 Kuoスキーム

Kuoスキームにおいては, 雲底$ k_B$と雲頂$ k_T$の間で,

$\displaystyle T_k = \hat{T}_k + \frac{L}{C_p} (1-b) I \frac{( T^c_k - T_k )} {\displaystyle \sum_{k=k_B}^{k_T} ( T^c_k - T_k ) \frac{\Delta p_k}{g} }$ (4.24)

$\displaystyle q_k = \bar{q}_k^{t-\Delta t} + b I \frac{( q^c_k - q_k )} {\displaystyle \sum_{k=k_B}^{k_T} ( q^c_k - q_k ) \frac{\Delta p_k}{g} }$ (4.25)

ここで, $ I$ は, $ t-\Delta t$ から $ t+\Delta t$ の間の 雲底雲頂間の水蒸気収束量であり,

$\displaystyle I = \sum_{k=k_B}^{k_T} ( \hat{q}_k - \bar{q}_k^{t-\Delta t} ) \frac{\Delta p_k}{g} .$ (4.26)

$ T^c_k, q^c_k$ は雲内の温度, 比湿であり後述する.

b は水蒸気収束を凝結加熱と加湿に分配するパラメータであり, Anthes(1977)に従って,

$\displaystyle b = \left\{ \begin{array}{ll} \left( \frac{1-\langle \mbox{RH}\ra...
...mbox{RH}_c \\ 1 & \langle \mbox{RH}\rangle < \mbox{RH}_c \\ \end{array} \right.$ (4.27)

と評価する. RH$ \equiv \hat{q}/q^*(\hat{T},p)$ は相対湿度であり,

$\displaystyle \langle$   RH$\displaystyle \rangle = \frac{\displaystyle \sum_{k=k_B}^{k_T} \hat{q} \frac{\D...
...{g} } {\displaystyle \sum_{k=k_B}^{k_T} q^*(\hat{T},p) \frac{\Delta p_k}{g} } .$ (4.28)

雲底$ k_B$は, 地表の気塊を断熱的に持ち上げたときに凝結しはじめる高度 (LCL;持ち上げ凝結高度)より上で 成層が湿潤不安定であるもっとも下のレベルであるとする. レベル $ k$ $ (T^a_k, q^a_k)$である気塊の $ k+1$ への断熱的な気塊の持ち上げによる $ (T^a_{k+1}, q^a_{k+1})$への変化は,

$\displaystyle T^a_{k+1} = T^a_k \left( \frac{p_{k+1}}{p_k} \right)^{\kappa}$ (4.29)

$\displaystyle q^a_{k+1} = q^a_k$ (4.30)

となる. このとき,

$\displaystyle q^a_{k+1} > q^*( T^a_{k+1}, p_{k+1} )$ (4.31)

であれば, 過飽和凝結が起こり,

$\displaystyle T^a_{k+1} \leftarrow T^a_{k+1} + \frac{L}{C_p} \frac{ q^a_{k+1} - q^*( T^a_{k+1},p_{k+1}) } {\displaystyle 1 + \frac{L}{C_p} \DP{q^*}{T} }$ (4.32)

$\displaystyle q^a_{k+1} \leftarrow q^a_{k+1} - \frac{L}{C_p} \DP{q^*}{T} \frac{...
...1} - q^*( T^a_{k+1},p_{k+1}) } {\displaystyle 1 + \frac{L}{C_p} \DP{q^*}{T} } ,$ (4.33)

となる.

まず, $ T^a_1=\hat{T}_1, q^a_1=\hat{q}_1 $ から出発して 逐次このような持ち上げ操作を行ない, はじめて凝結が起きたレベルを LCL とする. 成層が湿潤不安定であるかどうかは, $ T^a_k = \hat{T}_k, q^a_k = q^*( \hat{T}_k, p_k ) $ から出発して, $ T^a_{k+1}, q^a_{k+1} $を求めたとき,

$\displaystyle T^a_{k+1} > \hat{T}_{k+1}$ (4.34)

となるかどうかによって判断する.

雲内の温度, 比湿 $ T^c_k, q^c_k$ は 雲底$ k_B$ $ T^a_{k_B} = \hat{T}_{k_B},
q^a_{k_B} = q^*( \hat{T}_{k_B}, p_{k_B} ) $ から出発して断熱的に持ち上げた 気塊の温度, 比湿 $ T^c_k = T^a_k, q^c_k = q^a_k$ とする. $ q^c_k = q^*( T^c_k, p_k ) $ である. 雲頂$ k_T$は, 雲底よりも上で このようにきめた雲内の温度が周辺よりも低くなる, すなわち,

$\displaystyle T^c_k < \hat{T}_k$ (4.35)

となるような一番下のレベルである.

降水量$ P$は,

$\displaystyle P = (1-b) I .$ (4.36)

である.

4.4 浅い積雲

4.5 荒川シューバートスキーム

4.6 参考文献

Kuo, H.L., 1974: Further studies of the parameterization of the influence of cumulus convection of large-scale flow. J. Atmos. Sci., 34, 1232-1240.
Manabe, S., Smagorinsky, J., Strickler, R.F., 1965: Simulated climatology of a general circulation model with a hydrologic cycle. Mon. Weather Rev., 93, 769-798.



... 熱・運動量輸送効果については4.1
雲が大気大循環に与える他の効果として 放射が知られる.
... 1974)4.2
dcpam5には今後実装の予定.
...4.3
dcpam5には今後実装の予定.
... 荒川シューバートスキーム4.4
dcpam5には実装されていない.
... スキームの定式化の説明を行う4.5
以下は差分法と混ざった話になってしまっているので, あとで連続系の話と離散系の話とに分ける必要がある.
... を使うと4.6
もっと前から使うべき?? (コードとの対応によっては$ \kappa$を 使わない方がよいのかも)

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Yasuhiro MORIKAWA 平成20年8月9日