=== GFD オンラインセミナー 第 8 回 * 日時: 2022 年 2 月 1 日 (火) 16:00 - 18:00 * 話題提供者とタイトル: 柳瀬 友朗 (京都大学大学院理学研究科/理化学研究所計算科学研究センター) 「放射対流平衡下における湿潤対流の自己集合化に関する数値的研究」 * 要旨 雲は気候系において重要な役割を果たす. 対流の自己集合化(CSA)は放射対流平衡(RCE)の数値実験において見つかった雲の自発的な組織化過程であり, 大気が湿潤雲域と乾燥晴天域へと大規模水平分離することで特徴づけられる(e.g., Bretherton et al. 2005; Wing et al. 2017; Muller et al. 2022). CSAが発生すると領域平均的な湿度と雲量が減少し, 外向き長波放射量が増加するため, 組織化した雲システムが気候において重要な役割を果たすことを示唆する. しかし, CSAの発生条件及び発生機構は包括的には理解されていない. 本研究は, 非静力学大気モデルSCALE-RM(Nishizawa et al. 2015; Sato et al. 2015)を用いて, 水平領域幅・水平格子幅を制御パラメータとしてそれぞれ96-960km・500-4000mの間で系統的に変化させたRCE実験を行い, 系の最大水平スケールの制約と小規模過程の表現性が如何にCSAの発生有無を決定するかを調べた. まず, 既往研究(e.g., Muller and Held 2012)においては水平格子幅が約2kmよりも小さい場合にはCSAは発生しないと報告されてきたのとは対照的に, 本研究においては水平格子幅1km以下であっても水平領域幅が十分に大きいとCSAが発生することを初めて示した. 続いて, 水平格子幅-水平領域幅のパラメータ空間におけるRCEレジーム図を作成し, 水平格子幅が小さくなるにつれて, CSAの発生を許容する臨界領域幅が約500kmに収束することを発見した(Yanase et al. 2020). この結果は, CSAがメソαスケール以上の雲の組織化において重要な過程であることを意味すると同時に, 現実大気においても積雲対流と大規模場の相互作用の背後にメソαスケール相当の特徴的な長さスケールが存在することを示唆する. また, CSAの発生は乾燥域から湿潤域にむけて逆勾配的に水蒸気を水平輸送する下層の流れを伴うことを確認した. RCE下においては次の2つの相反する効果:(1)湿潤域の蒸発駆動冷気プールによる水蒸気場の水平均一化効果と(2)乾燥域の放射駆動冷気プールによる水平不均一化効果が共存するが, その両者の拮抗によりCSA発生有無が決定される. 後者は下降流域の水平スケールと比例的に強化されると考えられるため, 水平領域幅がある臨界的な長さを超えるとCSAが発生する. さらに, 乾燥域から湿潤域に亘る循環の特徴を定量化するために, 等可降水量線による水平領域分割に基づく手法を導入し, 循環強度の新たな指標である準3次元流線関数を提案した. これにより, CSAが発生する事例においては湿潤域下層に水蒸気流入をもたらす下層循環が卓越すること, またその力学的要因が乾燥域下層で強化された放射冷却に伴う浮力水平勾配であることを明らかにした. 一方, CSAが発生しない事例においては湿潤域下層の蒸発冷却に伴う浮力水平勾配によって逆向きの下層循環が卓越する. さらに, CSAに伴う下層循環の発達に先立つトリガー機構として, 乾燥域における自由対流圏下降流の境界層への貫入に注目した. 領域幅増加とともに乾燥域の自由対流圏下降流は強化するが, 弱温度勾配近似に基づく鉛直速度の診断によると, その直接的要因は対流加熱の弱化である. また, 大気水蒸気量と対流加熱量には密接な関係があり, 乾燥域の対流加熱の弱化は水蒸気量の水平変動性の増加に伴う. 領域幅を増加させると, 大きな水平スケールにおける水蒸気量や水平運動の変動が許容されるようになり, 結果的に乾燥域における自由対流圏下降流の強化を通じてCSAをトリガーする. 本研究は, 水蒸気, 放射・対流, 及び下層循環の関係を統合することで雲の組織化機構の理解を深めた. * 参考文献 Yanase, T., S. Nishizawa, H. Miura, T. Takemi, and H. Tomita, 2020: New critical length for the onset of self‐aggregation of moist convection.Geophys. Res. Lett., 47, https://doi.org/10.1029/2020GL088763. Bretherton, C. S., P. N. Blossey, and M. Khairoutdinov, 2005: An energy-balance analysis of deep convective self-aggregation above uniform SST. J. Atmos. Sci., 62, 4273-4292, https://doi.org/10.1175/JAS3614.1. Muller, C. J., and I. M. Held, 2012: Detailed investigation of the self-aggregation of convection in cloud-resolving simulations. J. Atmos. Sci., 69, 2551-2565, https://doi.org/10.1175/JAS-D-11-0257.1. Nishizawa, S., H. Yashiro, Y. Sato, Y. Miyamoto, and H. Tomita, 2015: Influence of grid aspect ratio on planetary boundary layer turbulence in large-eddy simulations. Geosci. Model Dev., 8, 3393-3419, https://doi.org/10.5194/gmd-8-3393-2015. Sato, Y., S. Nishizawa, H. Yashiro, Y. Miyamoto, Y. Kajikawa, and H. Tomita, 2015: Impacts of cloud microphysics on trade wind cumulus: which cloud microphysics processes contribute to the diversity in a large eddy simulation? Prog. Earth Planet. Sci., 2, https://doi.org/10.1186/s40645-015-0053-6. Wing, A. A., K. Emanuel, C. E. Holloway, and C. Muller, 2017: Convective self-aggregation in numerical simulations: A review. Surv. Geophys., 38, 1173-1197, https://doi.org/10.1007/s10712-017-9408-4. Muller, C. J., and Coauthors, 2022: Spontaneous aggregation of convective storms. Annu. Rev. Fluid Mech., 54, 133-157, https://doi.org/10.1146/annurev-fluid-022421-011319.