=== GFD オンラインセミナー 第 7 回 * 日時: 2021 年 11 月 16 日 (火) 16:30 - 18:30 * 話題提供者とタイトル: 戸次 宥人(マックス・プランク太陽系研究所) 「太陽対流層のロスビー波と傾圧不安定波の数値的研究」 * 要旨: 近年、太陽観測衛星SDO/HMIによる10年以上におよぶ太陽表面観測データを解析した結果、新たに大スケールの慣性振動モードが多数観測された(Gizon, Cameron, Bekki et al. 2021, A&A Letters)。これらのモードいずれもは、コリオリ力を復元力とし自転周期と同程度の非常に遅い周期を持っており、これまでの太陽内部探査に主に用いられてきた音波(pモード)とは全く異なるものである。観測されたこれらの慣性振動モードの理論的理解は、今後これらの固有振動を太陽内部診断に用いる可能性を検討する上でも欠かせないものである。 今回新たに判明した特筆すべき観測結果は以下の2点である。 * 太陽の赤道域で最も特徴的なモードは、非対流モードの古典的ロスビー波であり(Loeptien et al. 2018, Nature Astronomy)、従来の数値計算で繰り返し予見されていたような対流由来の熱ロスビー波(バナナセル)は観測されなかった。 * 一方高緯度帯では、極に向かって螺旋状に伸びる振動モードが観測された。この極域流れ場は、これまでは太陽深部の大規模対流セル(Giant cells)由来だと主張されていたが(Hathaway & Upton 2013, Science)、今回むしろ放射層の曲率由来の地形性ロスビー波の1種だと同定された。 我々は、まず太陽内部モデルを用いた線形固有値解析と非線形回転対流シミュレーションを行い、太陽対流層内部における古典的ロスビー波・熱ロスビー波・地形性ロスビー波の性質をそれぞれ調べた。その結果、古典的ロスビー波の中で動径方向に節点を1個持つ(n=1)モードは、南北反対称の熱ロスビー波と混合モードを形成することがわかった。太陽表面で観測されたロスビー波の伝搬周波数や緯度方向の固有関数のいくつかの特徴は、この新たに発見された混合モードによって説明できることがわかった。更に、このモードは(これまで考えられていたようなn=0モードとは異なり)対流によって駆動されているためエンタルピーフラックスを動径外向きに輸送できることも強調しておく。 次に、我々は高緯度帯の地形性ロスビー波が示す螺旋状構造の成因を考察した。線形解析および非線形数値計算の結果、対流層内部で緯度方向に大きなエントロピー差(極が暖かく赤道が冷たい)があるときに地形性ロスビー波は傾圧不安定となり観測と整合的な螺旋構造を獲得した。また、傾圧不安定モードは熱エネルギーと角運動量を極から赤道に輸送し、対流層内部の傾圧度および差動回転の強さを調節する重要な役割を果たしていることが判明した。更に、我々は傾圧不安定の成長率は磁場によって著しく抑制されることも突き止めた。これは、観測されている極域螺旋モードの振幅が太陽活動サイクルに従って大きく振動していることを説明するだけでなく、太陽の差動回転のねじれ振動の成因にも傾圧不安定が大きく関わっていることも示唆している。 * 参考文献: Gizon, Cameron, Bekki et al. “Solar inertial modes: Observations,identification, and diagnostic promise” A&A 652 L6 (2021) Hathaway, Upton, and Colegrove, “Giant convection cells found on theSun” Science 368, 1469 (2013) Hathway & Upton “Hydrodynamic properties of the Sun’s giant cellulaflows” ApJ 908, 160 (2021) Loeptien, Gizon, et al. “Global-scale equatorial Rossby waves as anessential component of solar internal dynamics” Nature Astronomy 2, 268(2018)