/森羅万象学校 /2004-03-04/

海と惑星はなぜ存在するのか
惑星大気起源論への招待

倉本 圭(北大・理) keikei@ep.sci.hokudai.ac.jp
2004 年 3 月 5 日
タイトルぺージ
キーワード


講義の目標


内容目次


大気科学が興味を引く理由


各惑星の大気組成


表層環境の違い
  • 上段: 金星
  • 中段: 地球
  • 下段: 火星


太陽系の惑星
  • 地球型惑星: 岩石が主成分
  • 木星型惑星: 水素 + ヘリウムが主成分
  • 天王星型惑星: 氷が主成分


外惑星の密度の違い
  • 色付きの実線はそれぞれの物質だけで惑星を作った場合の質量と半径との関係
  • 木星, 土星は水素の曲線に近い位置にある
  • 天王星, 海王星は氷の曲線に近い位置にある


惑星の内部構造


地球の内部構造


金星の内部構造


物質の呼び方の整理
しばしば混乱の因になる
  • 氷: H2O だけでなく NH3, CH4 の結晶も含む
  • 岩石: 金属酸化鉄 (イオン結晶)
  • 鉄: 金属鉄 (金属結晶)


太陽系の形成
4 段階を経て形成されると考えられている.
  • 分子雲
  • 原始星
  • 原始太陽系円盤
  • 太陽系


太陽系の形成 (詳細)
  1. 塵が円盤面に沈降
  2. 塵が集積し微惑星が形成
  3. 微惑星が集積し原始惑星が形成
  4. ガスを捕獲
    • 天王星, 海王星は木星, 土星より外側にあるので, 成長が遅い.
  5. ガスの散逸


元素存在度とイオン化傾向
  • なぜ地球が岩石(Mg/Fe と Si の酸化物)と鉄でできているかを理解できる
  • 鉄までのイオン化傾向の高い物質で酸素をとりつくしてしまうから
  • 水素は水溶液中の値. ガスになると鉄と酸素を奪い合う. 温度が高いと水素の方が酸化されやすくなる.
    • 目安は 1000 K
    • 水素と鉄だけの系ではだめ. 原始太陽系のように他の物質が存在する環境での場合
    • 製鉄所では石炭(炭素)を混ぜて, 鉄鋼石(酸化鉄)から金属鉄をつくる


まとめ: 惑星のタイプの違い


大気構造論の基礎
  • スケールハイト
  • 有効放射温度


大気構造論の基礎
  • スケールハイト
  • 有効放射温度


大気の構造
  • 基本は静水圧平衡


スケールハイト
  • 位置エネルギー(mgH)と熱エネルギー(kT)が等しい, という関係式になる.


スケールハイト
  • 地表気圧の 1/e (約 1/3 ) になる高度
  • 温度と平均分子量, 重力によって大気の厚みが決まる


温度の決まり方
  • 太陽からの放射加熱と冷却との釣合によって決まる


有効放射温度 Teff
  • 太陽放射の吸収量 = 惑星放射量
  • 地球の場合 Teff=255 K
  • 平均気温は 290 K: 差分は温室効果
  • 惑星アルベドはどう計るか?
    • 昔は月の地球食から決める: 地球が反射した太陽光のうち月によって反射される放射量と, 月が直接反射する太陽光との比から求める
    • 今は人工衛星を用いて反射太陽光を直接計る


温室効果の模式図
  • 矢印の太さは量に比例


放射のスペクトルと吸収率
  • 重要な吸収物質は水
  • 中段: 高度 11 km での吸収率, 水の吸収は少なくなる
  • 下段: 地表での吸収率,


水が放射をよく吸収する理由: 水の分子構造
  • 折れ曲がった構造と電荷の偏りを持つ
  • 回転と 3 つの振動モードを持つ


まとめ: 大気構造


大気進化の要因
  • 組成の変化
  • 加熱過程の変化


加熱過程の変化
  • 太陽放射の変化: 太陽光度の長期変化に着目
  • 集積加熱
  • 惑星内部からの発熱


暗い太陽のパラドックス
  • 恒星進化の理論に基づく.
  • 過去の暗い太陽の基では, 海洋は凍結していたのではないか?
    • そのような地質学的証拠は見当たらない


地球史: おもに生物化石によって時代区分がなされている
  • 顕生代: 多細胞生物の時代
  • 原生代: 単細胞生物の時代
  • 太古代: 生物のいない時代
  • 冥王代: その時代の岩石が見つかっていない時代


海の歴史の手がかり
  • 地球上の岩石の年代区分


海は 40 億年前に存在
  • 左: 堆積岩, 風化侵食過程(水循環)の存在を示す
  • 右: 枕状溶岩, 海洋の存在を示唆


暗い太陽のパラドックスの解決案: 過去の大気組成を考える
  • 大量の CO2 による温室効果によって凍結を妨げる


大気 CO2 量の自動調節機構
火成活動によって CO2 が増えると以下の手順で C02 量を調節
  1. 気温の上昇
  2. 降水過程の活発化
  3. 風化侵食の促進
  4. 海洋中にカルシウムイオンの増加
  5. 海洋への CO2 の吸収, 炭酸塩の形成
最終的には CO2 (炭酸塩) はプレート運動によって地球内部に取り込まれる
  • 沈み込み, または付加体として
  • プレート運動がないと CO2 循環しない


雪玉地球 (snow ball earth)
原生代に 3 大氷河期
  • 低緯度域まで氷河が分布
  • 陸上の氷河地形の痕跡を証拠
  • 推定期間中ずっと氷河期だったかどうかはわからない


暴走凍結のメカニズム


1 次元気候モデルの平衡解
氷の発達する緯度を CO2 量の関数として図示
  • 黒線: 現在の地球のパラメータ, 解は 4 つ存在
    • 全球凍結解, 部分凍結解, 無氷床解
    • 部分凍結解の 1 つ (下側) は不安定
  • CO2 の多い状態から次第に減少させていくと, 無氷床解, 部分凍結解, 全球凍結解へと遷移, 途中に飛びがあることに注意
  • 一度凍結すると, CO2 分圧をかなり高めなければ凍結状態から脱出できない


雪玉地球からの脱出を示す証拠
  • 氷河堆積物の上に炭酸塩からなる堆積岩が存在
  • 寒冷な時代から温暖な時代への遷移を示す
大陸の位置はあまり変わっていないことを仮定
  • ナミビアはずっと赤道近辺にあった?
  • 炭素循環の時間スケールとつじつまがあっているか?


集積加熱
  • 無限遠点から来た微惑星が原始惑星に衝突, 運動エネルギーを比熱で割って温度に換算





暴走温室効果論のおこり
  • 地球と金星との違いを理解したい
  • 初期地球においても重要な役割を果たす


初期地球の進化
  • 形成末期の水蒸気大気量は現在の海洋量に近い
  • 海洋の平均深さ (3000 m) にも意味がある
    • 海底で岩石の加水反応が起こる深さ
彗星では海洋を作れない
  • D/H 比が海洋の値より大きい
  • C が多すぎる


金星が熱いわけ


暴走の果てとして金星
蒸発させた水 (300 気圧に相当) をどうするか?
  • 暴走をはじめる状態 (現在の地球のアルベド) 現在の金星の状態 (アルベド 0.7) とがどうつながるかはよくわかっていない


ガス惑星の形成シナリオ
  • 星雲ガスに浸っている原始惑星を考える


臨界の発生
静水圧平衡でガスを支えることができなくなる惑星質量が存在
  • 惑星の集積にともない惑星の重力が増加することによる
  • ガスも惑星表面に集積するので, さらに惑星の重力を増加させる


臨界質量の見積もり
  • 昔の計算では 10 倍の地球質量
  • 最近ではもっと小さくてよいという計算もある


まとめ: 加熱過程の変化による大気進化


暴走温室/冷却問題の展開
  • 金星
  • 火星
  • タイタン
  • トリトン
  • 冥王星


暴走温室/冷却問題の所在地
物質は異なるが, 同様の物理過程が働く可能性がある
  • 地球: H2O
  • 金星: CO2
  • 火星: CO2
  • タイタン, トリトン, 冥王星: : N2, CH4


別の角度から: 大気の運動を考える
  • 極限状態の大気循環はどうなるか?


太陽系の常識を疑ってみる: 地球は木星にならないのか?
  • 臨界質量を再考察
  • hot Jupiter を作れるかもしれない


参考文献
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  • Mizuno, H., 1980: Formation of the giant planets. Prog. Theor. Phys., 64, 544-557.
  • 小倉義光, 1984: 一般気象学, 東京大学出版会
参考画像サイト
小高 正嗣 (2004-04-22) © 森羅万象学校企画グループ