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石油はあと何年利用できるか ?: 1. 石油とは ?

鈴木徳行
北海道大学 大学院理学研究科 地球惑星科学専攻
suzu@ep.sci.hokudai.ac.jp

[講演ビデオ (前半)]
目次
  • 1. 石油とは?
  • 2. 石油のモデリング
  • 3. 石油枯渇

図は Tissot and Welte (1978) より引用.
石油の科学組成
  • 主成分は炭化水素
  • 炭化水素中の炭素数によって, 「オイル」と「ガス」に区分する.
  • 中間状態を「コンデンセイト」: 地下ではガス, 地上でオイルになるもの.

石油の成因
  • 1950 年代は植物直接起源説: カルボン酸, アルコール, 直鎖炭化水素からできる.

堆積物の有機物の分析
  • 堆積物中の有機物から, 生物にない有機物(不溶性有機物)が検出される.


図は Tissot and Welte (1984) より引用.
ボーリングコアの分析
  • 深さとともに炭化水素の量が増加する.

ケロジェン起源説
  • スコットランドの岩石の名前に由来
  • ケロジェン(最も豊富に存在する堆積有機物)からできる
    • 有機溶媒, 水に溶けない有機物をケロジェンと呼ぶ
  • 地下深部でできる: 80-120 C の温度を経験

ジオポリマーの生成: 生物の死滅後におこる生物有機物の変化
  • 分解: 低分子化 (微生物による分解, 酸化反応, 加水分解)
  • 重合: 高分子化 (アミノ-カルボニル反応)
  • 変化しないもの: 抵抗性生物巨大分子 (植物の花粉, 細胞壁など)
  • 分解, 重合に至る経路はさまざま

アミノ-カルボニル反応(メイラード反応)による有機物の褐色化・黒色化
  • アミノ基 -NH2 と還元糖 -CHO の反応
  • フルボ酸: アルコール基, フェノール性アルコール基, カルボキシル基を持つ
  • フミン酸: フェノール性アルコール基, カルボキシル基を持つ
  • 重合が進み, 分子量が大きくなるため, 有機溶媒, 水に溶けない
シナリオ
  • 最初にフルボ酸が物ができる
  • 次第にフルボ酸がアルコール脱水反応してフミン酸ができる
  • フミン酸が重合してケロジェンができる
温度
  • 「低い温度」: 50 C 前後, 石油のできる温度 (80-120C)よりも低温
  • 地下 1000 m より浅い領域

ケロジェンの写真

ケロジェンの種類
  • 5 種類, H/C, O/C の比を軸にとった図上で分類
  • 深さとともに図上の位置が変化する.
  • 最初に O を取り除く反応が起こる: 脱水反応
  • 続いて H を取り除く反応が起こる: 芳香族化(ベンゼン環ができる),
H/C の解釈:
  • H/C = 2: 直鎖状の炭化水素が多い
  • H/C = 1: 芳香族多い(通常の二重結合は自然界では不安定)

ケロジェンの科学構造モデル
  • タイプI: H/C=1.6, 脂肪を多く含む, 高塩分濃度中の湖沼に生息する藻類の細胞壁を起源, ケロジェンの中では特殊で量も少ない.
  • タイプII: H/C=1.3, もっとも多いケロジェン, プランクトン起源
  • タイプIII: H/C=1.0, 陸上高等植物起源

もともと水素をたくさん持つケロジェン(炭化水素) ほど大量の石油を生成する : タイプI が一番石油を生成する

水素の少ないケロジェンほどガスを生成しやすい: タイプIII


タイプ II-S, IV ケロジェンの成因
  • タイプ II-S: 硫黄が付加する, S/C が 0.06 以上
    • タイプ I には 2 重結合が少ない
    • タイプ III の生成環境(陸上)には硫黄が少ない
  • タイプ IV: 酸化反応, ケロジェンの 2 次変質

[講演ビデオ (後半)]
石油の生成: ケロジェンの熱分解
  • ガスには 2 種類: ケロジェンから直接できたものと, オイルから分解したものがある.
  • オイルから分解したガスをとくに熱分解ガスと呼ぶ

石油は地球熱によって生成する


図は Tissot and Welte (1984) より引用.
石油の生成温度: タイプ II ケロジェンの例
図中の濃い部分が石油を表す.
  • 安定大陸 : 堆積速度が遅い, 80 C で生成開始
  • 大陸縁辺域: 堆積速度が早い 110 C で生成開始
反応速度が長いほど, 低温でも生成可能


図は田口 (1998) より引用 (オリジナルは Tissot et al. (1987)).
ケロジェンの種類による生成温度の違い
  • タイプ II-S ケロジェンがもっとも浅い所で石油になる
    • C-S の結合エネルギーは相対的に小さい
  • タイプ I ケロジェンがもっとも深い所で石油になる
    • C-C の結合エネルギーは相対的に大きい

石油の生成された年代
大気中の CO2 濃度の歴史(縦軸は現在の CO2 量との比)と 生成石油量(緑の棒グラフ)
  • 年代測定:
    • 石油に含まれる指標化石から年代を決める
    • 石油を作った岩石 (根源岩) の年代から決める
  • ほとんどの石油はジュラ紀と白亜紀に生成されている
    • 石炭紀では石炭が多く生成, ガスが多く, オイルは少ない
    • オイルがあっても石炭に吸着されてしまうため, 油田にならない
  • 最盛期で 1000 トン/year
    • 現在の年間消費量はおよそ 40 億トン/year

石油生成のまとめ

石油の移動
  • 1 次移動: 石油根源岩から多孔質岩石への移動, 「排出」とも呼ばれる
  • 2 次移動: 多孔質岩石内での移動

2 次移動の原因
  • あまり異論がない

1 次移動の原因
  • 1970 年代までは水と一緒に排出されると考えられていた
  • ケロジェン生成説が主流を占めるにしたがって, 水による排出は考えられなくなった (地下深度には水は移動できない)
  • ミクロには毛管現象では説明される


図は Ungerer et al. (1987) より引用.
1 次移動のイメージ: ケロジェンの量によって違いがあると考えられている
  • ケロジェン内に石油のネットワークが形成されると排出される
  • ケロジェンの量が少ないとネットワークができない = 排出されない
    • ジュラ紀と白亜紀には有機堆積物が大量に形成された



図は田口 (1998) より引用 (オリジナルは Pepper (1991)).
石油排出効率
  • 縦軸: 全石油量から実際に排出された石油の割合
  • 横軸: 根源岩中の石油の割合
  • 石灰岩は 8 割以上排出, 石炭はほとんど出さない

石油集積の場
  • シール構造のある地下深部にある: 地下構造の解析が重要

石油の変質の例

参考文献

  • Berner, 1997:

  • Bois et al., 1982:

  • 石渡, 1988:

  • Pepper, S. S., 1991: Estimating the petroleum expulosion behavior of source rocks: a novel quantitative approach, In Petroloeum Migration, England, W. A. and Fleet, A. J., ed., Geological Society of London, Special Publication, 59, 9-31.

  • 田口一雄, 1998: 石油の成因, 共立出版

  • Tissot B. P., and D. H. Welte, 1978: Petoroleum formation and occurrence. Springer-Verlag, Berlin, pp. 538.

  • Tissot B. P. and Welte, D. H., 1984: Petoroleum formation and occurrence 2nd. ed. Springer-Verlag, New-York, pp. 699.

  • Tissot, B. P., R. Pelet, and P. Ungerer, 1987: Thermal history of sedimentary basins, maturation indices, and kinetics of oil and gas generation., AAPG Bull., 71, 1445-1466.

  • Ungerer, P., B. Doligez, P. Y. Chenet, J. Burrus, F. Bessis, E. Lafargue, G. Giroir, O. Heum, and S. Eggen, 1987: A 2D model of basin scale petroleum migration by two phase fluid flow: Application to some case studies., In Migration of Hydrocarbons in Sedimentary Basins, Doligez, B. ed., 415-456, Editions Technip, Paris.


2003-04-22 ODAKA Masatsugu