=== GFD オンラインセミナー 第 5 回 * 日時: 2021 年 6 月 17 日 (木) 13:00 - 15:00 * 話題提供者とタイトル: 岩山隆寛 (福岡大学理学部) 「2次元乱流・地衡流乱流におけるエネルギースペクトルとフラックス不等式」 * 要旨: 大気のエネルギースペクトルは水平規模が1000km程度では水平波数kの-3に比例し,100km規模ではkの-5/3に比例する形状を持つことは,Nastorm&Gage(1984)の研究以降よく知られている.このようなスペクトルはしばしばNGスペクトルと呼ばれている.NGスペクトルを2次元乱流や地衡流乱流の観点から説明する試みがNastrom & Gage(1984)の研究以降精力的に行われてきた Tung & Orlando(2003)(以降TO03と略記する)はベータ平面上の2層準地衡流渦位方程式の高解像度数値計算によって,2層準地衡流系でNGスペクトルが再現できると主張した.彼らは波数空間内のエネルギーフラックスPi_EとエンストロフィーフラックスPi_Zの差k^2 Pi_E-Pi_Zを導入し,k^{-5/3}の領域ではこのフラックス差が正になること,この波数領域でエネルギーフラックスがエンストロフィーフラックスよりも卓越している,という解析結果と解釈を示した.TO03は現在までに100編近い論文に引用されているにもかかわらず.彼らのように2層準地衡流渦位方程式の数値計算でNGスペクトルを再現した報告はない. 一方,フラックス差に関してはいくつかの重要な進展があった.Gkioulekas & Tung(2005)は,強制散逸2次元乱流においてはこのフラックス差は負値であることを紹介し,Danilov不等式と呼んだ(フラックス差が負値である証明はDanilov によって行われpersonal communicationによって彼らに知らされたらしい).Danilov不等式は強制散逸2次元乱流における2重カスケード過程の証明に必要な不等式として重要なものであることが認識されている. このような背景のもと,Iwayama et al.(2019)ではTO03の追試を目指して,2重周期境界条件でf平面上の準地衡流渦位方程式の数値実験を行った.2層準地衡流系ではフラックス差は地球流体力学的に標準的な設定では符合不確定である.数値計算の解像度に注意しながらTO03も含み彼らよりも広範なパラメター範囲で数値計算を行ったがフラックス差は負値であり,TO3が主張するDanilov不等式の破れやk^{-5/3}スペクトルは実現しないことを示した.セミナーでは,Danilov不等式の紹介,Iwayama et al.(2019)の紹介,及び,まだ予備的な結果であるが,ベータ平面上の準地衡流渦位方程式の数値実験の結果を紹介する. * 参考文献: Gkioulekas and Tung, 2005, Dicsrete and Continuous Dynamical Systems B5, 103. Iwayama, Okazaki, and Watanabe, 2019, Fluid Dynamics Research, 51, 055507.